カンポットペッパー 白胡椒の作り方

 カンボジアの南西部、カンポット州・ケップ州で栽培されている高級オーガニック胡椒、カンポットペッパーには、黒、白、赤の乾燥胡椒があります。

 これらは、全て同じ房からできますが、今回は白に焦点を当てたいと思います。

 熟して収穫された胡椒の房には、下の写真のように、赤、橙、黄色、緑の実がなっています。

 このうちの橙色と黄色の実が白胡椒になります。

 熟した胡椒の実は、純白の種を皮が包んでいますが、この皮を剥いて種の部分だけにしたものが白胡椒です。

 純白の種の部分だけの純粋な香りと強い辛味が特徴です。

 黒胡椒や赤胡椒は種の味と香りに加えて、皮の部分の味と香りが加わるために、一層複雑な味と香りになるわけです。

 さて、熟して種のある実であれば、原理的にはどれでも皮をきちんと剥けば、白胡椒になります。但し、橙色と黄色の実が一番おいしい白胡椒になります。

 なぜでしょうか? 橙色と黄色の実が最も完全に皮が剥けるからです。

 赤や緑の実の皮を剥こうとしても、皮のごく一部が種に付着して残ってしまい、純白にはなりません。見た目だけでなく、味と香りも皮の一部のものが混ざってしまうので、美味しい白胡椒にはならないわけです。

 面白いことに、逆に橙色と黄色の実の皮を剥かずに黒胡椒にしようとしても、形や色が悪くなり、一級品の黒胡椒にはなりません。

 胡椒の世界も、適材適所ということでしょうか。

 白胡椒用に皮を剥くためには、収穫後しばらく煮たものをたらいに入れて、手で圧迫して皮を剥きます。その後他と同様に天日で乾燥させます。(下の写真)

 完成した赤、白、黒の乾燥胡椒

 

オーガニックのカンポットペッパーには、無農薬なので虫が付く―乾燥胡椒編

 カンボジア南西部のカンポット州・ケップ州だけで栽培される、カンポットペッパーは完全有機栽培。当然無農薬なので様々な虫が付きます。

 前回の記事では、生の葉や実に付く植物の「ペスト」Mealy Bugについてお話ししました。

<硬い乾燥胡椒にも付く虫、シバンムシ(死番虫)>

 生の木に付く虫ならわかりますが、胡椒ミルが必要なほど硬い乾燥胡椒も食べる虫がいます。シバンムシ(死番虫)です。「蓼食う虫も好きずき」とはよく言ったものです。

 なんか不気味な名前ですが、ウィキペディアによると

 「頭部を家屋の建材の柱などに打ち付けて雌雄間の交信を行う習性を持つ、この音は時計の秒針の音に似ているが虫の姿が見えず音だけ聞こえることから、死神が持つ死の秒読みの時計(death-watch)の音とする俗信があり、英名のdeath-watch beetleはこれに由来する。和名のシバンムシは英名を元に死番(死の番人=死神)虫と命名された。」

 とのことで、やはり死神のことだったんですね。

(シバンムシの成虫) (胡椒の実に付く幼虫)

 この虫の仲間は、東南アジアを発生地として世界中に多くの種類がいて、「ゴキブリを即死させるような猛毒の植物も食べて育つことができる。また顎の力が強いため薄い梱包であれば穴を開け内部に侵入してしまう。そのため、長期保存されている乾燥動・植物質はありとあらゆるものが加害されると言っても過言ではなく、タバコ、香辛料、漢方の生薬なども食害を免れない。」
(ウィキペディア抜粋)

 日本でも、畳の裏などを食べて大発生することもあります。

 従って、乾燥胡椒もせっせと食べます。但し不思議なことに、乾燥胡椒の中でもほぼ赤胡椒だけを食べるのです。

 カンポットペッパーには、通常の黒胡椒、白胡椒の他に赤胡椒があり、まろやかな風味と独特の旨味でパリでも最高級品となっています。

 赤胡椒の皮が比較的柔らかいためか、独特の旨味に引き寄せられるためか、農園で見つかる

 シバンムシは99%以上赤胡椒に居ます。

 うちのスタッフは「赤胡椒がスウィートだから虫が好むんだ」と言っていますが。

 この赤胡椒に付くものは何故か体が赤い保護色になっています。

 ごくまれに、黒胡椒で見つかるものは黒い保護色、白胡椒で見つかるものは白い保護色をしています。

<シバンムシの退治>

 しかし、いくら無農薬だからと言っても、虫が付いた胡椒をお客様にお届けするわけには行きません。

 農園でも1級品を1粒1粒選別しているので、成虫が居るものを簡単に出荷することはありませんが、卵を胡椒の実の中に産み付けるので、卵の状態で日本に来て成虫になってしまう可能性もあり、頭の痛い問題でした。

 日本でどのように対処しているかを調べると、引越屋さんなどが畳で発生したシバンムシ駆除をしています。

 方法は、熱風乾燥機を取り付けた専用車で、お客さんの家に行き、畳を熱風乾燥するというものでした。論文を調べるとシバンムシは45℃程度の熱風で、成虫だけでなく蛹、幼虫、卵までタンパク質熱変性により、死滅することがわかりました。

 そこで、うちでも写真のような熱風乾燥機を導入しました。タイ製のガスタービンに胡椒用の棚を取り付けたものです。

 あまり高温で胡椒の風味を損なわない、パスチャライズ(低温殺菌)の考え方で、出荷前の胡椒は、65℃以上1時間以上はこの機械に掛けます。

 虫がいる場合、機械を始動し熱風が来た途端に、バタバタと成虫が飛び立って逃げ出します。

 カンポットペッパー栽培は、100年前からの有機の伝統を守っていますが、うちの農園では品質を保つために、このような文明の利器も取り入れています。

 

オーガニックのカンポットペッパーには、無農薬なので虫が付く

 カンボジア南西部のカンポット州・ケップ州だけで栽培される、カンポットペッパーは完全有機栽培。当然無農薬なので様々な虫が付きます。

<木の葉や生の実に付くMealy Bug (ミーリーバグ、粉貝殻虫)>

 新型コロナ並みに感染力が強く、植物の「ペスト」とも恐れられている、Mealy Bug(粉貝殻虫)は中でも一番厄介です。
この虫は、木の葉や生の実に取り付いて、汁を吸って生きています。
虫の大きさは1~数ミリ程度で非常に小さく、周りを粉で覆っているので、葉や実に何か白いものが付いている?としか、近づいてよく見ないとわかりません。
(生の実に付くMealy Bug)

 それで気が付かないで、放っておくと大変なことになります。
この虫は繁殖力が凄まじく、1か月で数百万倍に増えますので、気が付いたら農園中に蔓延していた、ということになりかねません。

 汁を吸われた胡椒は弱って、他の病気にも取りつかれやすくなり、枯れてしまうことも
あります。

 対策は、常に農園全体を見て回り、Mealy Bugを発見したらすぐに、周りの枝や胡椒の実の房ごと取ってきて焼却します。
当然農薬は使用できないので、有効な対策は虫を取り除き、取り除いたものから風などでまた病気が広まらないように焼却するしかありません。

 1つ見つかると周りの木にもいるケースが多いので、ワーカーを数名呼んで周り一帯を捜索して全部を取り除き、必ず全て償却します。

 この時に重要なのは、取り除くときに直接手で触れない、この作業中手でむやみに他の胡椒などに触れない、焼却後はすぐに手を洗うということです。
この虫の粉に卵が居るので、粉が手に着くと、下手をすると知らずに卵をまき散らすことになるからです。その点、この植物の「ペスト」でも新型コロナ同様に手洗いが欠かせません。

 発生地点一帯から十分に取り切った、と思ってもまだ油断ができません。
次は、完全有機栽培の為、天然の植物だけで作った「殺虫剤」を撒きます。
「殺虫剤」と「」が付いているのは、実際には虫を殺せるわけではなく、虫が嫌がって逃げるものだからです。農薬のような決定的な効果が出せないのですが、仕方がありません。

 クレンスレングという有毒な木の実を潰したものを主成分に、タバコの葉や有毒のつる草等を水に1週間程度漬け込んだものを散布しますが、強烈に嫌な臭いがします。

 さて、Mealy Bugはカンボジアにも体の大きさの違う複数種類が居て、様々な植物にとりつきます。
これまでの栽培経験では、キャッサバ(タピオカ)やパパイヤで発生しました。

 特に2014年にカンボジア東部クラチェ州でキャッサバ農園を運営した時に、折角タイから大量に輸入した苗が、大半これでダメになって大損害を被りました。
(2014年のブログにも詳細を書きました)

 それ以来、私はこの虫を蛇蝎のように嫌って、初めて胡椒農園で見つけた時にはショックを受けました。頻繁に農園中を見回って発見すると即座にワーカーを集めて対応するようにしています。
完全有機、無農薬のカンポットペッパーには、栽培の為に、このように通常よりも人手と愛情が必要なのです。

(次回は乾燥した硬い胡椒に付く虫のお話しです)

カンポットペッパー農園の今:高品質な胡椒を選別

 カンボジア南西部のカンポット州・ケップ州は美味しいオーガニック胡椒、カンポットペッパーの産地です。

 カンポットペッパー農園では、収穫後の施肥、施設メンテナンスの後、胡椒の選別作業に入っています。

<オーガニック胡椒、カンポットペッパーの条件>

 日本の農協にあたるカンポットペッパー協会(Kampot Pepper Promotion Association)は100年前からの完全な有機農法を厳密なガイドラインとして定めています。このガイドラインを守る農園だけが会員として、カンポットペッパーの名前を名乗ることができます。

 

ガイドラインの例:

・完全に有機肥料を使用する 牛糞、牛骨粉、こうもり糞を中心とする有機肥料のみ使用。
・農薬の不使用 除草剤、殺虫剤などの農薬は使用禁止。
・施設の規則 胡椒の添え木は木材のみ。屋根はココナツの葉か寒冷紗。添え木の間隔、1ヘクタール当たりの添え木(胡椒の木)の本数制限。(十分な間隔を開け、風通しを良くして病気を防ぐ為)
・胡椒の種類 クメール種のBig leaf、Small leafと呼ばれる2種類のみを栽培。栽培が比較的簡単な「インド種」、「マレー種」は禁止。
・製品 決められた以上の大きさ、色、形の条件を満たすもののみ。条件を満たさない胡椒の実はカンポットペッパーを名乗れない。

 

<オーガニック胡椒、カンポットペッパーの品質にこだわった選別>

 胡椒の収穫と乾燥が終わった後、カンポットペッパーであるための上記の最後の条件を満たす胡椒の実だけを選別する作業が一仕事です。

 乾燥された胡椒の実のうち、黒胡椒は約50%、赤・白胡椒は約80-90%しか1級品としてカンポットペッパーを名乗って出荷できません。

 1粒1粒手作業で選別するため、1人で1日1~2kgしか選別できません。

 農園からの出荷量はトン単位ですが、1トンを選別するために1人でやると1年半はかかることになります。

 うちの農園でも半数弱が女性ワーカーですが、彼女たちはほぼ1年中朝から夕方まで選別作業に取り組んでいます。出荷が集中する時にはそれでも間に合わず、日雇いワーカーも数十人雇って選別します。

 こんな時には、騒ぎを聞きつけて、カンポットペッパー協会の会長始めスタッフがやって来て、正しく選別するための指導と品質確認をやってくれます。

 この様に、カンポットペッパーは徹底的に手をかけて、高品質な胡椒だけを出荷しています。ここまで品質にこだわっているのは、世界でもカンポットペッパーだけだと思います。