カンボジア南西部のカンポット州・ケップ州だけで栽培される、カンポットペッパーは完全有機栽培。当然無農薬なので様々な虫が付きます。
前回の記事では、生の葉や実に付く植物の「ペスト」Mealy Bugについてお話ししました。
<硬い乾燥胡椒にも付く虫、シバンムシ(死番虫)>
生の木に付く虫ならわかりますが、胡椒ミルが必要なほど硬い乾燥胡椒も食べる虫がいます。シバンムシ(死番虫)です。「蓼食う虫も好きずき」とはよく言ったものです。
なんか不気味な名前ですが、ウィキペディアによると
「頭部を家屋の建材の柱などに打ち付けて雌雄間の交信を行う習性を持つ、この音は時計の秒針の音に似ているが虫の姿が見えず音だけ聞こえることから、死神が持つ死の秒読みの時計(death-watch)の音とする俗信があり、英名のdeath-watch beetleはこれに由来する。和名のシバンムシは英名を元に死番(死の番人=死神)虫と命名された。」
とのことで、やはり死神のことだったんですね。
(シバンムシの成虫) | (胡椒の実に付く幼虫) |
この虫の仲間は、東南アジアを発生地として世界中に多くの種類がいて、「ゴキブリを即死させるような猛毒の植物も食べて育つことができる。また顎の力が強いため薄い梱包であれば穴を開け内部に侵入してしまう。そのため、長期保存されている乾燥動・植物質はありとあらゆるものが加害されると言っても過言ではなく、タバコ、香辛料、漢方の生薬なども食害を免れない。」
(ウィキペディア抜粋)
日本でも、畳の裏などを食べて大発生することもあります。
従って、乾燥胡椒もせっせと食べます。但し不思議なことに、乾燥胡椒の中でもほぼ赤胡椒だけを食べるのです。
カンポットペッパーには、通常の黒胡椒、白胡椒の他に赤胡椒があり、まろやかな風味と独特の旨味でパリでも最高級品となっています。
赤胡椒の皮が比較的柔らかいためか、独特の旨味に引き寄せられるためか、農園で見つかる
シバンムシは99%以上赤胡椒に居ます。
うちのスタッフは「赤胡椒がスウィートだから虫が好むんだ」と言っていますが。
この赤胡椒に付くものは何故か体が赤い保護色になっています。
ごくまれに、黒胡椒で見つかるものは黒い保護色、白胡椒で見つかるものは白い保護色をしています。
<シバンムシの退治>
しかし、いくら無農薬だからと言っても、虫が付いた胡椒をお客様にお届けするわけには行きません。
農園でも1級品を1粒1粒選別しているので、成虫が居るものを簡単に出荷することはありませんが、卵を胡椒の実の中に産み付けるので、卵の状態で日本に来て成虫になってしまう可能性もあり、頭の痛い問題でした。
日本でどのように対処しているかを調べると、引越屋さんなどが畳で発生したシバンムシ駆除をしています。
方法は、熱風乾燥機を取り付けた専用車で、お客さんの家に行き、畳を熱風乾燥するというものでした。論文を調べるとシバンムシは45℃程度の熱風で、成虫だけでなく蛹、幼虫、卵までタンパク質熱変性により、死滅することがわかりました。
そこで、うちでも写真のような熱風乾燥機を導入しました。タイ製のガスタービンに胡椒用の棚を取り付けたものです。
あまり高温で胡椒の風味を損なわない、パスチャライズ(低温殺菌)の考え方で、出荷前の胡椒は、65℃以上1時間以上はこの機械に掛けます。
虫がいる場合、機械を始動し熱風が来た途端に、バタバタと成虫が飛び立って逃げ出します。
カンポットペッパー栽培は、100年前からの有機の伝統を守っていますが、うちの農園では品質を保つために、このような文明の利器も取り入れています。