カンボジアの農園は出稼ぎで人手不足に。【最後に追記しました】

2015年6月20日

先日、弊社の天然ゴム農園を訪れた際に、農園マネージャーのC君からゴムの樹液採取(タッピング)の痕を見せられながら、農園の人手不足を説明されました。
その説明方法がプレゼンテーションとして妙に説得力があったので、記事にします。

上がそのタッピング痕の写真です。タッピングは3日に一回、樹皮にナイフで傷を付けて樹液がしみだしてくるようにします。1-2年程度の期間で上から下に傷を付けて行った痕が写真の状態です。

C君 「この痕を見ると、場所によって痕の状態が違っているが、これはタッピングをしたワーカーが替ってきたことを表しています。ワーカーによってやり方が違い、上手い下手があるので、傷の痕も変わってくる。
この痕を見ると5人のワーカーがタッピングをしてきたことが分かる。」

C君 「下手なワーカーがやると深く切り過ぎて木にダメージを与えので、本来は上手いワーカーに継続して働いてもらいたいが、短期間で辞めてしまうケースも多い。(実際、この写真の下の部分はダメージを受けています。)」

C君 「上手いワーカーが辞めるのは、賃金の高いタイに出稼ぎに行きたいからで、辞めた後に補充で新規採用しようとしても、やはりタイに行く人間が多いので中々集まらない。」

確かに、カンボジアの農園の賃金は1か月100ドル程度ですが、タイの最低賃金は1日10ドルなので1月に200ドル以上稼ぐことも十分に可能です。そのため、多くの農民がタイに出稼ぎに出てしまいます。

元々カンボジアに農業以外の十分な産業が無いために、十年来多くの農民が海外に出稼ぎに出ていました。特に隣国タイは、習慣や食べ物が似ているので人気が高かったのです。

また、タイの側からもカンボジア人労働者は不可欠になっています。タイも中進国になり、賃金の低い単純労働をやる人間が不足しており、工事現場や農園などでは多くのカンボジア人やミャンマー人を見ます。

先週のNHKワールドのニュースでは、タイの漁船で多くのカンボジア人、ミャンマー人が働いており、事実上タイの水産業を支えているが、待遇が極端に悪く「奴隷状態」とも言われている。この為、EUからは半年以内に「奴隷労働」を止めない場合、タイからの水産物の輸入を禁止すると通告された、と報道されました。

多くのカンボジア人がタイに出稼ぎに出ていますが、パスポートや正式な労働許可(Work Permit)を持たずに働いているケースも多く、それを逆手に取られて劣悪な環境で働かされているのが、水産業の実態のようです。

さて、約1年前にタイに軍事政権ができたときに、労働許可(Work Permit)を持たないカンボジア人の取り締まりが強化されましたが、逮捕を恐れて数十万人のカンボジア人が一斉にタイから逃げ出す事態となりました。

数十万人の失業者が一挙に生まれたカンボジアでは、フンセン首相がパスポート発給手数料を135ドルから一挙に4ドルに下げる対応を行いました。単純労働者不足のタイ側も、短期労働許可をすぐに2.5ドルで出す対応をしました。 両政府の対応の結果、カンボジア人の大脱出は収まりました。

この大脱出事件の副産物として、出稼ぎカンボジア人が簡単にパスポートとタイの労働許可を取れるようになりました。
その結果、増々出稼ぎが増えて、カンボジア国内の農園のワーカーが不足する事態となり、我々の天然ゴム農園でも影響を受けているというわけです。

我々の天然ゴム農園では、この記事の冒頭のマネージャーC君のプレゼンテーションの結果、ワーカーの給料を上げることになりました。タッピングの上手いワーカーには職能給をプラスすることにもしました。

4年前に農園を始めた頃に比べて、賃金が2倍になってしまいました。
賃金や地価の安さに惹かれて、カンボジアで農園を始めたのですが、中々目論見通りには行きません。

<追記>
上記のように、経験のあるワーカーを長期間確保するために、職能給をプラスすることにしましたが、その効果が早速出ました。

職能給導入前は、タッピング(木に傷を付けて樹液を出すこと)のやり方が雑で、特に深く掘り過ぎて木を傷めるケースが多かった。下の写真は、深く掘り過ぎて木の表面に大きなダメージを受けた例です。

この様に大きな穴が開くと、数年後にここを再度タッピングしようとしても上手く行きません。

ところが、職能給を出すことをワーカーに通知したところ、急にどのワーカーもタッピングが丁寧になり、「深過ぎ」が激減しました。

上の写真のタッピング痕の下の方は、最近のものですが、「深過ぎ」が全く無くきれいになりました。

これまで現場のマネージャーC君が、幾ら注意しても「深過ぎ」は無くならず、あまりひどい場合は解雇していたのですが、最近はすっかり影をひそめました。

注意や解雇といった「罰」を与えても、改善されなかったものが、追加報酬で一気に改善のモチベーションが上がったわけです。
カンボジアのワーカーも、のんびりしていてお金の為に頑張るよりも、手を抜いて楽な方が良いのかと思っていましたが、大きな誤解であったことに気が付いた次第です。