半年ぶりの記事です。

2016年5月4日

約半年ぶりの記事になります。
その間日本への一時帰国もありましたが、間が空いた主な理由は、農園に張り付いていて記事を書く余裕がなかったからです。
今回の記事は、そのあたりの経緯を述べたいと思います。

1月下旬に日本への短期出張(帰国)から戻ると、昨年植え付けてまだ収穫していなかった生姜が、地中で枯れてきている、という報告が入りました。

早速帰国翌日に農園に入ると、確かに一部が地中で枯れてきています。病気ではなく、水分が抜けてシワシワになって枯れてきています。

折角、昨年3月から10か月かけて育てた生姜が、昨年末に一旦は出来上がっていたものが、1月下旬になって一部枯れてしまったことで、大きな衝撃を受け、悔しい思いで一杯になりました。

通常は、熱帯の生姜の主産地の隣国タイでも、毎年4月に植付し、種生姜にするものは1月末までに収穫するので、1月下旬まで地中に置いてあっても、枯れることは無いはずです。
この時にはすぐに理由が分からず、非常に理不尽な思いをしました。

後になって、冷静に考えると、理由は以下の点ではないかと思います。
1.昨年のエルニーニョ現象の為に雨量がかなり少なく、例年より地中の水分が少ない。特に雨季が早く終わってしまい、長期間雨のない状態が続いた。

2.昨年末頃に私が長期間帰国して留守にしている間に、雨季が早く終わった分を補う水やり作業を怠った。また、同時期に除草を怠り、雑草に地中のただでさえ少ない水分を吸われてしまった。

さて、いずれにしても、何かすぐ手を打たざるを得ません。弊社の「農業専門家」の社員も、日本人の「生姜の専門家」も、「すぐに掘り出せ」といいます。

確かに、乾季に入って数か月間一滴も雨が降らず、地中はカラカラに乾いており、連日灼熱の太陽に照らされて地中の温度も高い状態が続いています。
このまま地中に放って置いても、生姜から水分が抜ける一方です。すぐに掘り出すことに決めました。

翌日から弊社の胡椒農園からもマネージャー以下20人に来て貰い、更に大量の日雇いワーカーを動員して収穫作業に入りました。幸いなことに2日間で収穫を終えることができました。(下は収穫風景)

ホットしたのも束の間、収穫した生姜を見ると、既に芽が出始めているものが多数あります。
通常は、一旦収穫して乾かして暗所に最低1か月置いてストレスを与えると、種生姜として芽が出る状態になります。

今回は、地中で散々乾かされてストレスを受け、芽が出る状態になり、既に発芽しかけていると考えられました。
それで、「専門家」達の意見も「すぐに植付すべし」というものでした。
確かに、収穫したものを保管しても更に水分が抜けて弱る一方です。一刻も早く植付して、十分な水を与えて育てるべきだと判断しました。

そこで、収穫完了の翌日から直ちに植付作業に入りました。そうは言っても通常の植え付けは4月前後に行うので、収穫が終わった2月初めには、準備がまるで整っていません。

生姜の連作はできないので、農園内の新しい土地を準備して植付ますが、これらの土地は開墾し終わったままで、土作りの作業も遅れて、できていませんでした。

また、植付の際には大量の燻炭、稲わら、牛糞堆肥、米ぬかなどが必要です。特に燻炭はモミ殻を燻して作りますが、まず百トンものモミ殻を集めるのが大仕事です。近所の精米所を回ってトラックでピストン輸送を繰り返します。
今度は、運んできたモミ殻を小山に積んで真ん中に煙突を立てて燻します。一回燻すのに1-2時間かかるので、中々はかどりません。

また、稲わらも近隣の農家を回って、1件1件交渉しては掻き集めます。燻炭と稲わら集めは、実際には自転車操業で、何とか当日午前中の植付作業に使う分を、前日の夕方に掻き集める状況でした。

植付地は、トラクターで数回耕運して、畝を作り肥料、燻炭を入れて種生姜を植付、更に燻炭、土をかぶせ、その上から稲わらを敷きます。
一刻も早く植え付けるために、出来る限り多くの日雇いワーカーをかき集めて、複数の畝で平行して作業を行いました。

しかし、文字通りの寄せ集めのワーカーなので、作業の品質が中々上がりません。ある作業工程をやっと覚えてもらったと思っても、日雇いなので翌日には来ずに、別のワーカーに代わってしまいます。
また、連日35℃以上の炎天下の作業の為、目を離すといつの間にか休憩していることもたびたびです。

そこで、ワーカーの間近で、マネージャー達が作業を監督して、作業方法を教えたり、工程間でスピードの差が出た場合に要員数を調整したりするわけです。

しかし、マネージャー達もカンボジア人なので、炎天下を避けて遠くの日陰にいたりします。そうするとワーカーの作業品質も上がらず、ある工程の人数が足らずボトルネックとなって作業が遅れることも頻発します。

更に、段取りが悪くて、ワーカーが飲む水が現場に無くなって作業が滞る、燻炭を植え付けの畝の近くに運ばず、作業が止まる、等が多発します。

これでは、植える前に種生姜が弱って死んでしまいます。
一刻も早く植え付けるために、私が毎日ワーカーの中に入って、現場で陣頭指揮をせざるを得ない状況になりました。

私が朝から夕方の作業終了まで、ワーカーの間近で作業を見て、気が付いたことをワーカーに教えます。そうすると、マネージャー達も日陰に居られず、ワーカーの中に入らざるを得ません。(下は植付風景)

また、間近で見るとボトルネックもはっきりわかるので、すぐ改善の指示が出せます。ワーカーの水が足りない事や、疲労度合いも確認できます。

こうして、私が連日現場に張り付いたわけです。60歳近い人間が何週間も、一日中35℃以上の炎天下で歩き回っている訳ですから、体も悲鳴を上げます。1月末に行った奥歯の抜歯とインプラント移植の傷が膿んで、顔が膨れて童話の「瘤取り爺さん」のようになりましたが、現場は離れられません。

この状況に更に追い打ちをかけるようなことが起こりました。
植え付け前の種生姜を山積みしてあったのですが、山の下の方の生姜にカビが生えて枯れるものが多発しました。

理由は、日本人の「生姜の専門家」の指示で、以下の致命的な失敗を犯したためです。
1.植付まで数週間かかるのに収穫後に生姜に着いた土を洗い流してしまったこと。
2.山積みの生姜に水を掛けてしまった。水が下に溜まってカビを発生させた。

兎に角、すぐにカビは取り除き、薬で消毒し、山積みは止めて、下に水が溜まらない竹のゴザを大量にしいて、その上に低く平らに置き、風通しを良くしました。

この様に、トラブルがトラブルを呼ぶ状況で、我々のスキルや組織の未熟さと言った弱点を、エルニーニョ現象やカビなどの自然の力に一気に突かれた形になりました。

この日々悪戦苦闘の中で、ちょっとほのぼのした気持ちにさせる出来事もありました。
通常ワーカーは、決まった時間内でしか作業をしません。昼休み中の作業などはマネージャーが頼めないために、マネージャー達だけで作業することも度々です。

しかし、ある時午後の植え付けの為の燻炭が不足するため、私ととマネージャー達が昼休み中に燻炭作りをやっていると、昼休み中のワーカーが自然に声を掛け合って集まってきて作業をしてくれました。 何かテレビドラマの1シーンの様で、現実とも思えませんでした。(下の写真)

こうして一畝一畝植え付けを進めて、2月下旬に全ての植付が完了しました。

しかし、トラブルはこれだけではありませんでした。
長くなったので、次回に続きます。