胡椒の有機栽培にこだわるわけ

 これまで、何回も書いてきましたように、弊社はカンボジア南西部のケップ特別市とカンポット州で完全有機栽培の‘カンポット・ペッパー‘を栽培しています。

 実はカンボジアの胡椒の産地は、我々の南西部カンポット州周辺の他に、東北部コンポンチャム州メモット郡があります。
南西部カンポット州では有機栽培が主ですが、東北部コンポンチャム州では化学肥料をふんだんに使った栽培法を取っています。

 カンボジアの胡椒の2大産地では、このように正反対の栽培法を取っていますが、近年どちらも急速に栽培面積と売り上げを伸ばしてきています。
従って、商売としてはどちらのやり方が良いとは一概には言えません。

 私自身は南西部での有機栽培にこだわっていますが、その理由は大きく2点あります。
 ・第1は、生産者としては自分が食べたい食品を提供したいこと。
 ・第2は、商売としても有機栽培のカンポット・ペッパーに大きな可能性があること 

 第1の点ですが、私が‘カンポット・ペッパー‘の黒コショウを、最初に食べた時のショックはまだ鮮明に記憶しています。今まで 50年間以上食べてきた普通の日本の胡椒とは、全く別の強い味と香りがあって、胡椒を使う意味が初めて分かったのです。

 これまでの胡椒は、多少刺激を感じるだけだったので、食品にかけてもかけなくても正直同じで、胡椒なんてなくても良いと思っていました。これは多くの日本の方も似たような感覚だと思います。
 しかし、カンポット・ペッパーをかけると、食品の味が大きく引き立つので、胡椒の存在価値がやっとわかりました。

 そこで、私は自分が生産するときには、有っても無くても同じようなものを作るのでは意味が無い、存在価値があるものを作りたいと考え、カンポット・ペッパー作りに挑戦しました。

 実際、化学肥料や農薬を使うと、味や風味に大きな影響が出ることが知られています。
 化学肥料・農薬販売会社では、味や風味への影響を軽微にする肥料の栄養素N(窒素),P(リン酸),K(カリ)の使用割合の指導を農家に対して行っています。

 しかし、どんなに工夫しても、化学肥料を使うと味・風味に影響がでてしまい、‘カンポット・ペッパー‘と同じものはできません。
 また、言うまでもないですが、自分が食べたい安心・安全な食品を他の人にも提供したいのは当たり前です。

 上はカンポット・ペッパーの乾燥中の黒コショウ

 第2の、商売として有機栽培は成り立つのか、利益はでるのかという点です。
 先ず、売り上げ高=収穫量x販売価格 ですから、収穫量と販売価格に分けて考えてみます。

 確かに収穫量は、化学肥料と農薬をふんだんに使った栽培法に分があります。化学肥料と農薬は20世紀農業が劇的に収穫を増やした「緑の革命」の主役ですから、収穫量を高めるための近代兵器です。

 一方の、‘カンポット・ペッパー‘の有機農法は、100年前からの伝統農法を基にしているので、収穫量では分が悪い訳です。
 実際、‘カンポット・ペッパー‘が最盛期に ヘクタール当たり4トン程度と言われていますが、化学肥料・農薬では  4 – 8トンまで可能とも言われています。やり方によっては、‘カンポット・ペッパー‘ の2倍近くの収穫量になります。

 次に販売価格ですが、‘カンポット・ペッパー‘は特有のブランドを持っていて、特に欧米から大量の引き合いが来ているために、カンボジアの地元で売る場合普通の胡椒の 2 – 2.5倍の価格で取引されます。

 これまでの話でお分かりのように、‘カンポット・ペッパー‘は収穫量は化学肥料・農薬農法の1/2になる可能性がありますが、販売価格は 2 – 2.5倍となるので、売り上げ高は1/2倍 x 2 – 2.5倍となりほぼイーブンか少し多めになります。

 利益は、売り上げ-費用ですから、費用を比べるとやはり農薬を大量に使う方が、除草剤を使えず人手で除草する有機栽培よりも有利です。
 しかし、ここはカンボジアで人件費が極端に低いので、人件費の点でも有機栽培はそれほど不利にはなりません。下は、有機栽培の人手による除草の様子

 以上のように、有機栽培は商売の観点でも、化学肥料・農薬農法に引けをとりません。
逆に、昨今は先進国だけでなく、中国や開発途上国でも安心・安全な食品を求める消費者が増えてきており、その動きは今後ますます高まります。

 そこで、‘カンポット・ペッパー‘は今後欧米だけではなく、中国やアセアン諸国へも需要が拡大していく可能性を秘めています。

 日本においては、‘カンポット・ペッパー‘はまだほとんど知られていませんが、取扱う販売会社も徐々に増えてきており、弊社も日本向けに商品を提供し、拡大を図っています。
 今後の大きな展開が期待でき、夢が広がります。

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