カンポットペッパー農園記事(その8)

ケップの胡椒農園の近況

 弊社の胡椒農園は、カンボジア南西部のケップ特別市(州)とカンポット州の2か所あります。
 先週末にケップの農園に行きましたので、その様子をレポートします。

 昨年植えた木は、3mの屋根を突き抜けて育ち、実を鈴なりにつけ始めています。


 この時期は、胡椒の実ができても中の種の部分がまだ固く出来上がっていないので、実は青胡椒として食べることができます。青胡椒とは生のフレッシュな胡椒のことで、房ごと摘み取って野菜としてイカなどの海鮮と一緒に炒めて食べます。(辛いので1粒ずつ食べます)

 1月になると、実の中の種が固く熟してきて、野菜としては食べられなくなりますが、乾燥して黒胡椒や完熟の赤胡椒として出荷できるようになります。

 胡椒の木は屋根を突き抜けるほど伸びましたが、ココナッツ葉の屋根は1年でほとんど壊れてしまい、日光を遮れなくなってしまいます。(下の写真)

 胡椒はもともとうす暗いジャングルの中で他の木に巻き付いて生活する植物なので、直射日光には弱い性質があります。特に3歳未満の若い木は直射日光を避けるための屋根が必要です。
そこで、今再び屋根を葺くためのココナッツ葉を準備しています。

 上の写真は準備中のココナッツの葉で、虫干し中です。ココナッツ葉は、1ヘクタールの畑に5000枚という大量の枚数が必要で、この農園では4ヘクタール分合計2万枚を準備しています。

 さて一方、今年9月に苗を植えたばかりの畑の方は、若木が成長速度のピークの時期を迎えています。

 胡椒の木が伸びると、木の皮で作った紐で添え木に縛り付けて行きます。下の写真は木の皮から作った紐です。

 農園のスタッフは、これから半年間ほどは、胡椒の木の伸びの速さに急き立てられながら、紐結びに終われます。
 丁度これから乾季に入るところですが、乾季には全く雨の降らない期間が数か月続きます。胡椒は3-5日に1回は、添え木1本についてバケツ1杯の水が必要です。

 そのために、下の写真のような貯水池を用意し、雨季に雨水を溜めます。

 水不足だった昨年と違い、今年は雨季に十分な水が貯えられました。この農園では、来るべき乾季も乗り切れそうです。

 

カンポットペッパー農園記事(その7)

赤胡椒、黒胡椒、白胡椒、青胡椒は同じ1本の木から

 弊社は、カンポット州とケップ特別市で胡椒農園を運営しています。今回はこの農園で出来る胡椒の種類についてお話します。

 実は我々の食卓に上る胡椒には、赤胡椒、黒胡椒、白胡椒、青胡椒の4種類があります。
これらは全て同じ1本の木からできるのですが、収穫時期や製法が異なるために色や味、風味に違いが出てきます。

 胡椒の実は、実った初めは青(グリーン)でだんだん黄色っぽくなり、熟すにつれて赤味がかってきます。
 通常は、赤味がかる前に収穫してそのまま乾燥させます。一番風味が強いからですが、これが黒胡椒です。(下の写真)

 完全に熟してから収穫して乾燥させたものが、赤胡椒です。黒胡椒よりも味がマイルドになります。‘完熟黒胡椒‘などとも呼ばれ、取れ高も少ないので珍重されます。

 同じ1本の房でも下の写真の様に、赤胡椒(赤い実)と黒胡椒(になる緑色の実)が取れます。

 白胡椒は、黒胡椒になる実の皮を取って白い種の部分だけを乾燥させたものです。(下の写真)黒い皮の風味を感じずに、胡椒の本来の辛味が味わえます。


 これら赤、白、黒の使い分けですが、赤は黒の完熟版でマイルドになっているだけなので、基本は黒と白の使い分けになります。

 辛味の欲しい時には白、風味の欲しい時には黒とも言われ、魚料理には白、肉料理には黒ともいわれますが、実際には、個人の好みに依るところが大きいようです。
 例えば、私の場合、強い風味が欲しいので魚にも黒をよく使います。

 さて、青胡椒は何か?というと、熟す前のグリーンの実を収穫してそのまま野菜のように使ったものです。
 食卓では、乾燥させずに生のまま使いますので、カンボジアのような胡椒産地ならではのものになります。
 下の写真は、収穫後3時間のものです。冷蔵しないと2日くらいですぐに黒くなって使えなくなります。

 この青胡椒を使ったカンボジアの代表的な料理が、イカの青胡椒炒めです。

 何とも言えない、新鮮な胡椒の爽やかな風味が海鮮に良く合います。青胡椒の辛味は黒胡椒などよりはるかに少ないので、野菜として使われるのですが、青胡椒を房ごとガブリとやると大変なことになります。
 日本人は一粒ずつ食べた方が無難です。

 青胡椒の収穫時期は、丁度今、11月~12月になります。それ以降になると実が熟して固くなってしまいます。
 そして、十分に熟して固くなったものを翌年2月~5月に赤、黒、白胡椒として収穫するわけで、農園としての本格的な収穫作業になります。今から、それが待ち遠しいです。

カンポットペッパー農園記事(その6)

ケップ農園の胡椒の食品成分分析結果

 弊社では、カンボジア南西部のケップ州とカンポット州で‘カンポット・ペッパー‘ブランドの胡椒を完全有機栽培しています。
この胡椒を地元だけでなく、日本でも販売を拡大するように努力していますが、そのために、ケップの農園で取れた胡椒の食品成分を日本で分析してみました。

 分析内容は、
1.日本の食品のパッケージに通常表示する7種の栄養素とエネルギー(カロリー)
  タンパク質、脂質、炭水化物、ナトリウム、食塩相当量、水分、灰分、及びカロリー
2.残留農薬量
の2種類です。下は1.7種の栄養素とエネルギー分析結果です。


 各成分、エネルギーはやはり通常の食品分析表とほぼ同じです。カロリーは100g当たり364Kcalでスプーン1杯2gとすると約7Kcalとなり、普通に使う分にはカロリーは問題になりません。

 意外にも、タンパク質、脂質、炭水化物もバランスよく含まれています。
 また、この分析では出てきませんが、胡椒の辛味成分は主に植物のアルカロイドの1種、ピペリンという物質です。 このピペリンには抗菌、防腐、抗酸化作用があり、欧米人の肉食に胡椒が欠かせない理由となっています。
 また、一説によるとピペリンはターメリック(熱帯ウコン)の癌の炎症、感染症に対する効果を20倍も高めるとも言われています。

 さて、下は2.残留農薬量の分析結果です。

 106種類の農薬について検査をしましたが、全て検出されませんでした。
完全有機栽培なので当たり前のことなのですが、改めて有機栽培であることを実感させられます。

 完全有機栽培では農薬を使えないために様々の苦労があります。
 まず、除草剤が使えないので、除草作業を全て人手で行わなくてはならず、相当の労力がかかります。
(人手による除草風景)


 また、病気に対しても天然のもの以外の薬が使えないので、対応も限られてきます。
 その分、病気にかかりにくくするために、肥料の与え方等を工夫して抵抗力の高い胡椒の木を育てます。

 逆に言いますと、化学肥料と農薬を使う栽培法では、化学肥料をふんだんに与えて栄養過多の肥満児状態になるので、病気にもかかりやすくなり、農薬が不可欠になる訳です。

 さて、食品成分分析でも、無農薬が実証されましたので、これからも自信を持って完全有機栽培を進めて行きたいとおもいます。

 

カンポットペッパー農園記事(その5)

新胡椒農園の若木

 前回の記事で、今年増やした新胡椒農園で水不足を解消するために、井戸を掘ったことをご紹介しました。

 今年は、9月にこの農園の2ヘクタール、3000本の添え木に苗を新たに植えました。

 上の写真は、植えた直後のものです。1年経った若い木の枝を切って苗として植えるのですが、植えた直後数日は本体から切り離されて何とかサバイバル出来るかどうかの瀬戸際なので、ぐったりした様子になりました。

 全体の数%は、新しい土地に根を張れずにサバイバルできず、黒くなって死んでしまいます。

 死んでしまった苗は新しいものと取り替えますが、多くの苗は無事にサバイバルを果たして、今後の木の幹をなる新芽を出します。

 上の写真で、指で押さえているのがその新芽です。
植え付けから丁度2か月経った現在の新農園の様子です。

 全体に新芽が大きくなってきています。添え木の下部の緑の濃い部分は元の苗、黄緑の部分は新しく育ってきた茎と葉です。
 この時期には、コウモリの糞の肥料を与えます。胡椒の根の上の部分の黒い粉のようなものがコウモリの糞です。

 コウモリの糞はこの‘カンポット・ペッパー‘に独特の強い風味を与えます。このコウモリの糞は州内の山にある洞窟から採集されます。

 さて、添え木1本を見ると、下の写真のように新芽が大きく育って来ている様子が分かります。

 新芽が伸びると、ワーカーが木の皮からできた紐で添え木に巻き付けていきます。今後はその作業に追われます。来月には50cmほどの高さになります。

 

カンポットペッパー農園記事(その4)

新胡椒農園の井戸堀り

 今年新たに苗の植え付けをした新胡椒農園は、カンポット州チュムキリ-郡とチュウク郡の境にありますが、8月までは水不足が大きな課題となっていました。

 この農園の場所では、昨年は雨が多かったのですが、雨季本番のの7,8月に入ってもさっぱり本格的なスコールが降らず、折角掘った貯水池も下の写真のようにカラカラの状態になっていました。

 弊社のもう一つのKep特別市の農園の貯水池は、底から湧き水が出てくるので、雨が少なくても水量が維持できるのですが、この貯水池は湧き水も無いので、こんな状態になりました。
これでは、乾季になった時に胡椒にやる水が確保できません。

 スコールが来なくて貯水池に水が不足となると、対策は井戸を掘るしかありません。
カンボジアの多くの場所では、数十メートルの地下には水脈があるのが普通です。これは地下に流れる川のようになっているので、汲み上げても尽きることなく次々に湧き出てきます。

 早速、井戸業者を呼んで地下水脈の調査をし、井戸を掘る場所を特定します。この井戸業者は自分の調査に基づいて井戸を掘り、水がきちんと出た場合のみに費用を請求するシステムになっています。

 井戸業者が掘る場所を特定して、井戸を掘り始めました。下の写真のようにコンプレッサー車と連結して圧搾空気を送り込み、主にその圧力で地中を掘り進みます。

 これで井戸を掘り始めたのですが、10m位のところで断念しました。地下に固い岩盤があって、圧搾空気では歯が立たないのです。

 仕方なく、翌日別の場所を探して掘り始めました。順調に掘り進み地下に5mほどのパイプを立て続けに埋めて行きます。30mも掘ったところで、下の写真のように地下から水が吹きだし始めました。

 パイプを押し込んでいるところから、水が圧搾空気に押し出されて吹き上がっています。
(写真をクリックするとはっきり見えます。)

 何とか地下水に突き当たった様です。後は、これが単なる地中の水たまりではなく、地下水脈であることを確認する作業です。
やり方は、ここからポンプで24時間汲み上げ続けます。24時間汲み上げても水が出てくるようなら、本当の地下水脈と判断できます。

 幸いなことに、24時間耐久テストの結果、地下水脈に当たったことが分かり、井戸として使えることになりました。
 胡椒に与える水は井戸水を直接ではなく、この井戸水を一回池に溜めて含まれているヒ素を沈殿させてから使います。カンボジアの地下水はヒ素が含まれていることが多く、現地人は誰も井戸水を飲みません。

 上の写真は、井戸水を溜めた池です。幸いなことに、十分な水が確保できて次の乾季は何とか乗り切れそうです。

 

胡椒の有機栽培にこだわるわけ

 これまで、何回も書いてきましたように、弊社はカンボジア南西部のケップ特別市とカンポット州で完全有機栽培の‘カンポット・ペッパー‘を栽培しています。

 実はカンボジアの胡椒の産地は、我々の南西部カンポット州周辺の他に、東北部コンポンチャム州メモット郡があります。
南西部カンポット州では有機栽培が主ですが、東北部コンポンチャム州では化学肥料をふんだんに使った栽培法を取っています。

 カンボジアの胡椒の2大産地では、このように正反対の栽培法を取っていますが、近年どちらも急速に栽培面積と売り上げを伸ばしてきています。
従って、商売としてはどちらのやり方が良いとは一概には言えません。

 私自身は南西部での有機栽培にこだわっていますが、その理由は大きく2点あります。
 ・第1は、生産者としては自分が食べたい食品を提供したいこと。
 ・第2は、商売としても有機栽培のカンポット・ペッパーに大きな可能性があること 

 第1の点ですが、私が‘カンポット・ペッパー‘の黒コショウを、最初に食べた時のショックはまだ鮮明に記憶しています。今まで 50年間以上食べてきた普通の日本の胡椒とは、全く別の強い味と香りがあって、胡椒を使う意味が初めて分かったのです。

 これまでの胡椒は、多少刺激を感じるだけだったので、食品にかけてもかけなくても正直同じで、胡椒なんてなくても良いと思っていました。これは多くの日本の方も似たような感覚だと思います。
 しかし、カンポット・ペッパーをかけると、食品の味が大きく引き立つので、胡椒の存在価値がやっとわかりました。

 そこで、私は自分が生産するときには、有っても無くても同じようなものを作るのでは意味が無い、存在価値があるものを作りたいと考え、カンポット・ペッパー作りに挑戦しました。

 実際、化学肥料や農薬を使うと、味や風味に大きな影響が出ることが知られています。
 化学肥料・農薬販売会社では、味や風味への影響を軽微にする肥料の栄養素N(窒素),P(リン酸),K(カリ)の使用割合の指導を農家に対して行っています。

 しかし、どんなに工夫しても、化学肥料を使うと味・風味に影響がでてしまい、‘カンポット・ペッパー‘と同じものはできません。
 また、言うまでもないですが、自分が食べたい安心・安全な食品を他の人にも提供したいのは当たり前です。

 上はカンポット・ペッパーの乾燥中の黒コショウ

 第2の、商売として有機栽培は成り立つのか、利益はでるのかという点です。
 先ず、売り上げ高=収穫量x販売価格 ですから、収穫量と販売価格に分けて考えてみます。

 確かに収穫量は、化学肥料と農薬をふんだんに使った栽培法に分があります。化学肥料と農薬は20世紀農業が劇的に収穫を増やした「緑の革命」の主役ですから、収穫量を高めるための近代兵器です。

 一方の、‘カンポット・ペッパー‘の有機農法は、100年前からの伝統農法を基にしているので、収穫量では分が悪い訳です。
 実際、‘カンポット・ペッパー‘が最盛期に ヘクタール当たり4トン程度と言われていますが、化学肥料・農薬では  4 – 8トンまで可能とも言われています。やり方によっては、‘カンポット・ペッパー‘ の2倍近くの収穫量になります。

 次に販売価格ですが、‘カンポット・ペッパー‘は特有のブランドを持っていて、特に欧米から大量の引き合いが来ているために、カンボジアの地元で売る場合普通の胡椒の 2 – 2.5倍の価格で取引されます。

 これまでの話でお分かりのように、‘カンポット・ペッパー‘は収穫量は化学肥料・農薬農法の1/2になる可能性がありますが、販売価格は 2 – 2.5倍となるので、売り上げ高は1/2倍 x 2 – 2.5倍となりほぼイーブンか少し多めになります。

 利益は、売り上げ-費用ですから、費用を比べるとやはり農薬を大量に使う方が、除草剤を使えず人手で除草する有機栽培よりも有利です。
 しかし、ここはカンボジアで人件費が極端に低いので、人件費の点でも有機栽培はそれほど不利にはなりません。下は、有機栽培の人手による除草の様子

 以上のように、有機栽培は商売の観点でも、化学肥料・農薬農法に引けをとりません。
逆に、昨今は先進国だけでなく、中国や開発途上国でも安心・安全な食品を求める消費者が増えてきており、その動きは今後ますます高まります。

 そこで、‘カンポット・ペッパー‘は今後欧米だけではなく、中国やアセアン諸国へも需要が拡大していく可能性を秘めています。

 日本においては、‘カンポット・ペッパー‘はまだほとんど知られていませんが、取扱う販売会社も徐々に増えてきており、弊社も日本向けに商品を提供し、拡大を図っています。
 今後の大きな展開が期待でき、夢が広がります。

カンポットペッパーのご紹介

 弊社の胡椒農園もそうですが、カンポット州と南隣のケップ特別市の100件ほどの有機栽培農家で、カンポット・ペッパー協会(Kampot Pepper Promotion Assosiation)という団体を組織しています。
 この団体が有機栽培のガイドラインを定めており、そのガイドラインを順守したと認められた農園が、「カンポット・ペッパー(Kampot pepper)」のブランドを使うことを許されています。

 このように、「カンポット・ペッパー」とは、カンポット・ペッパー協会が認めた有機栽培の胡椒ですが、以下のような特長があります。

1.世界最高級の味と風味

 胡椒を大量に使い、胡椒の品質にこだわる欧米の声を代表するTIME誌も、2012年1月16日号で以下のように述べています。 
「普通の胡椒はテーブル・ワイン。カンポット・ペッパーは良質のボルドー・ワイン」

 確かに、食べていただければ一目瞭然ですが、フルーティな味とはっきりとした風味に特徴があります。
 欧米の一流フレンチ・レストランで使われており、欧米からの需要が高まっています。
 実際、昨年カンポット・ペッパー協会経由で輸出された胡椒はわずか 30トンでしたが、欧米に輸出する仲買商達からカンポット・ペッパー協会へ、その10倍の300トンの注文が殺到しました。

 この味と風味の理由は、完全有機栽培であると言うこともありますが、栽培されるカンポット州とケップ特別市の気候風土と、独特の赤黄色でミネラルを多く含む土壌によります。

2.完全有機栽培

 前々回の記事でも書きましたように、化学肥料や農薬を一切使いません。一般に化学肥料を使うと胡椒の風味に悪影響があると言われていますが、カンポット・ペッパーにはその様なことは一切ありません。
 また、消費者や生産農家への健康被害を心配する必要もありません。 

 カンポット・ペッパー協会の有機栽培ガイドラインは、100年前からの伝統農法をベースにしているので、肥料や害虫対策も全て自然のものを使っています。

 また、有機栽培については、有機認証の世界標準と言われているフランスのエコサート(ECO CERT)も取得しています。実は日本のJAS有機認証も、このエコサートを基にしています。
 下の写真、左がカンポット・ペッパーのトレードマーク。右はエコサートのマーク

3.栄光と荒廃、そして復活の歴史

 カンポット・ペッパーは、フランス植民地下で19世紀後半から栽培され、20世紀初頭には年間 8,000トンも生産されていました。これらは主にフランスに運ばれ、欧米の一流レストランで使われていました。

 ところが、1970年代のポルポト時代からの30年間の内戦で、胡椒栽培もできなくなり、カンポットの農園も荒れ果てました。内戦の終結後1990年代の後半から栽培農家がぽつぽつと戻り始め、代々伝わる伝統農法で胡椒栽培を再開し始めました。

 21世紀になってから本格的に胡椒農園が増え始め、2006年には100件ほどの農園でカンポット・ペッパー協会が組織され、欧米への輸出の基盤ができました。

 ここ数年で、カンポット・ペッパー協会経由の欧米への輸出が年々倍々の勢いで増加してきています。
 それに伴い、欧米でもカンポット・ペッパーが本格的に復活してきたことが知れて、需要も高まってきています。

 また、一昨年から日本勢もカンポット・ペッパーに着目し始め、ケップ特別市では 5-6 件の農園が作られています。下は、弊社のケップ特別市の農園

 高まる需要に対応して、カンポット・ペッパー協会の農園からの買取価格も年々上がり、この5年間で4倍に跳ね上がってきました。普通の胡椒の2倍の価格となっています。

 このように、カンポット・ペッパーは、一旦はポルポト時代に荒廃の底に沈みましたが、21世紀に復活を始めて、これから増々生産、売り上げを拡大して行くことになります。

胡椒の苗の新規植え付けが終わりました!

 前回の記事では、弊社の Kep 特別市の胡椒農園で胡椒が実を付け始めたことをお伝えしました。
 今年は、新たにこの Kep の胡椒農園で2ha、カンポット州の新農園で2haの胡椒の苗を植え付けました。
 胡椒は植え付け後18-20か月で最初の収穫を迎え、その後25年程度連続して毎年収穫ができます。

 胡椒は挿し木で殖えるので、植えて1年経った胡椒の枝を切って苗にします。
通常は、離れた別の農園から苗を持ってくるので、運ぶ間に水分が失われてしまいます。そこで、運んで来たらすぐに水に浸して1晩置き、水分を補ってから植え付けるのです。

 この運んでいる間に水分が失われることの為に、植え付け後の苗の生存率が大きく左右されます。弊社は Kep の近隣の農園から苗を提供してもらっていますが、やはり Kep の農園は近いだけに植え付け後の生存率が高く、カンポットの新農園は距離があるので生存率が落ちてきます。

 苗は、下の写真のように、添え木にくっつくように2本の苗を横にして植えます。1本の苗に2本の枝があります。

 勿論、植える場所には肥料を混ぜておきます。この後、丁度根の真上の部分に水と肥料の円形の受け皿を作って、水を与えます。(下の写真)

 結構見事な足技で、水をやりながら円形の受皿の形を整えて行きます。
 この後、植えた苗が生き延びるか否かは、根が出るかどうかにかかっています。無事に根が出て文字どうり根付けば新しい環境で生き延びることができます。下の写真は新しく根が出てきたところです。

 このように無事に根が出ない場合は、全体が黒くなって死んでしまいます。下の写真の苗のうちの1本は死んでしまいました。

 どんな場合でも、5%前後は根付かずに死ぬものが出てきます。死んだ苗は新しいものに植え替えます。そのために下の写真のようにリザーブを用意しておきます。このリザーブの苗は切り取って農園に運んだ後、リザーブ用の場所に一旦植えてあります。

 これらのリザーブ達は既に根を出しているので、植え替えても生存率は100%になります。
さて、9月初旬に植えた苗から新芽が伸びてきました。

 この芽を添え木に巻き付けると、新しい胡椒の木の幹になります。この芽が1年後には3mの天井まで到達します。その時が今から楽しみです。

カンポットペッパー農園記事(その3)

胡椒が本格的に実り始めました!

 弊社はカンボジアの南西部カンポット州とその隣のケップ特別市で、胡椒農園を運営しています。どちらの農園も、カンポット州の胡椒の有機栽培農家の集まりである、カンポットペッパー協会(Kampot pepper Promotion Association)のメンバーとして、完全有機栽培を行っています。

 完全有機栽培なので、化学肥料や農薬は全く使いません。肥料は牛糞、コウモリの糞、牛骨粉しか与えません。
下は牛糞を与えるために土と混ぜたもの。

 この牛糞は臭いませんが、コウモリの糞を混ぜるとかなり強烈に臭います。

 また、農薬も全く使いません。殺虫剤はクレン・スレングという強烈な毒のある木の実を潰して、3日間水に漬けた水を殺虫剤として散布します。
このクレン・スレングの毒は人も殺傷するほど強烈で、これを散布すると害虫も一切寄り付かなくなります。

 除草剤も使わないので、放って置くと胡椒の添え木の間に雑草が生い茂ってきます。特に今の時期は雨季真っ盛りで、雑草も急速に成長します。雑草が茂ると、折角肥料で培った土の養分が吸い取られるだけでなく、土の保水力が必要以上に高くなります。
このところ連日本格的なスコールが降り、土に大量の水が供給されているので、雑草の保水力の為に水がはけずに溜まって、胡椒の根に悪影響が出てしまいます。

 そこで、農園のスタッフが雑草取りを行います。

 ご覧の様に板に腰かけて、丁寧に手作業で取っていきます。胡椒の茎や根を傷めないように器具や機械は使いません。この為、雑草取りに多大な工数が掛かります。この時期は雑草の伸びが早いので、通常のスタッフだけでは足りず、テンポラリーワーカーを雇う必要があります。

 この様に有機栽培は多大の人手がかかりますが、カンボジアでは人件費が極端に安いので、労働集約型の有機栽培に向いていると言えます。

 さて、肝心の胡椒の木ですが、下の写真のようにココナッツの葉で葺いた屋根まで到達しています。

 また、上から下まで鈴なりの実を付け始めました。

 これらの実は、11月、12月に一部を収穫して生で出荷します。カンボジアでは生の胡椒は野菜のように使われ、肉や魚介類と一緒に炒めた料理は、カンボジアの名物料理の1つです。

 残りの胡椒の実は、2月までそのままにして置いて実の中に固い核ができるのを待ちます。この固い核ができた実を収穫して3日ほど天日で乾燥させると香りの高い黒コショウができます。
 今から収穫が待ち遠しいです。

 

カンポットペッパー農園記事(その2)

胡椒は伸び盛り:胡椒プランテーションの様子

 一昨日胡椒プランテーションを訪れました。心配していた水不足も、本格的な雨が数回降ったために当面の心配がなくなりました。前日の雨で下の写真の様に畝の間に水が溜まっています。

 雨水のおかげで貯水池を使わずに済んでいるので、下の写真の貯水池の水位も1.6mほどを保っています。

 昨年4月にはまともな雨が1回しか降らず、その後も雨が少なかったために乾季に水不足に陥りました。
今年4月は本格的なスコールが3回ありましたので、今年は例年通りの雨が期待できて次の乾季は大丈夫そうです。

 恵みの雨のおかげで胡椒は伸び盛りです。背丈は2mを超えてきています。
下の写真の白矢印の様に、添え木に足を延ばしてしっかりと絡みついていきます。

 また、写真でわかりますが、胡椒の蔓を添え木に赤褐色の紐で結び付けています。蔓が伸びるたびに紐で結ぶので、ワーカーは毎日この作業に追われています。
因みに、この赤褐色の紐は、下の写真のkhleng Porという木の皮から取ります。

 下の写真の様に花(白矢印)もだいぶ咲いていますが、この花をそのままにすると全体の成長が遅れるので、全て摘んでしまいます。

 中には、下の写真の様にすでに実をつけているものもあります。実は昨年9月に植えた時に既にあった枝にでき、植えた後で伸びた枝にはできません。この実はもちろん普通の胡椒ですが、収穫して売るほどの量はできませんので、一部がワーカーのおかず用になります。
日本では実を乾燥させて削って黒い粉にしたものが一般的ですが、カンボジアでは青い生のままの実をエビやイカと炒めて食べる料理が人気です。

 この後、5月前半には肥料を与えます。弊社の農園はKampot Pepperブランドを名乗るために、完全な有機栽培ですので、肥料も牛糞とコウモリの糞、プラス隠し味の牛骨粉を与えます。
下の写真は、準備してある牛糞です。

本格的な収穫は、来年の3月~5月になります。