カンポットペッパー農園記事(その10)

胡椒農園の収穫とその後

 弊社のKep州の胡椒農園では、5月末に一旦すべての収穫を終えました。この時には、熟した実だけではなく、熟していない実や花芽も全て取り除いてしまいます。

 栄養分が実に行かず、全て枝葉の成長に使われるようにして、木全体を大きくするためです。

 下は、その時の収穫風景です。梯子をかけて木の上の部分の実も収穫します。

 上の写真の手前の籠に収穫した胡椒の実の房を入れています。

 5月末に収穫を終えた後、雨季が本格化する前に、土入れを行います。これは畝の土が雨で流れだして少なくなったのを補う作業です。雨季が本格化すると作業がしにくくなります。

 何しろ、添え木7500本分の土入れなので、膨大な量の土が必要です。今年は下の写真のように農園内の土を掘って使用しました。

 土入れの後は、肥料を与えます。雨季が本格化して木が十分な水が得られるタイミングで、同時に栄養も与えて一気に木の生長を加速させる目的です。

 肥料は牛糞堆肥がメインになります。理由は伝統的にカンボジアの農村では、至る所で牛の放牧を行っており、比較的簡単に大量の糞が集められるためです。

 その他ミネラルの補給に牛骨粉も与えます。それから、何故かはわかりませんが、伝統的にコウモリの糞も一緒に与えます。これがカンポットペッパーに独特の風味を与える隠し味などと言われてはいますが。

 このKep州や隣のKampot州には、平坦なカンボジアには珍しく多くの山があります。この山は石灰岩でできているので、雨で溶けて多くの洞窟があり、その洞窟にコウモリが大集団で生息しています。

 そこで、山の近くの村では洞窟に入ってコウモリの糞を取って生活している集落が多くあります。
 我々もその様な家に直接コウモリ糞を買いに行くわけです。

 先日、コウモリの糞を買出しに、ある村に行って聞いた話ですが、Kampot州にあるKセメント(Kampot セメント)という会社が石灰岩の山を買い取って原料に使い、そのためにコウモリ糞取りの人々が山から追い出されているそうです。

 Kセメントは次々に山を買ってしまうので、このままではコウモリ糞が手に入らなくなり、将来カンポットペッパーの独特の風味に危機が訪れるかもしれません。

 さて、肥料を与えて雨季が本格化すると、木が成長して多くの新しい枝葉を茂らせてきます。
そして、5月末の収穫から2か月たった8月からは、木に多くの花芽が出てきました。一旦体全体の成長に栄養が使われて、一段落すると今度は花芽や実の生殖成長の順番になる訳です。

 下は、最近の胡椒の木、一杯の花芽を付けています。

 葉の付け根付近から小さな軸状のものが多数垂れてきているのが花芽です。この花芽の一部にはすでに小さな実が生ってきているものもあります。

 来月下旬には多くの青い実が出来てきます。これは青胡椒と言って、カンボジアでは生のまま野菜のようにして食べます。(下の写真は、カンボジア名物 「イカの青胡椒炒め」)

 来年の3月になると熟した実を収穫して、乾燥胡椒を作ります。木に一杯の花芽を見ながら、青胡椒や乾燥胡椒の収穫に思いをはせます。

カンポットペッパー農園記事(その9)

■ 胡椒の収穫が始まりました!

 弊社のKep州にある胡椒農園では、初の胡椒の本格的な収穫作業が始まりました。
一昨年9月に植えて18か月育て、待ちに待った収穫です。

 胡椒の木では実の房が収穫を待っています。実が十分に成熟しているのを確認して房ごと摘み取ります。初日は179kgの収穫量になりました。その後摘み取った房を集めて、実を一粒一粒選別します。

 胡椒は赤、黒、白、青の4種類があり、全て1本の木からできます。もっと言うと1房からこれらの4種類の胡椒ができるのです。

 熟した同じ房の中で赤い実が付き、これを選り分けて赤胡椒となります。上の写真の籠の入った赤い実がそれです。赤胡椒は、黒胡椒の一種で「完熟黒胡椒」とも呼ばれますが、黒胡椒に比べてマイルドな味わいです。

 また、形や色の悪い実も選り分けて白胡椒にします。白胡椒は実の表皮を除いて白い種の部分だけにしたものです。

 上の写真のように1-3日水に漬けて、表皮をふやかしてから取り除きます。表皮の強い香りが無くなって特有の辛味が味えます。
 赤胡椒、白胡椒になる実を房から取り去った残りの大部分の青い実は黒胡椒になります。胡椒の深い香りが楽しめます。
 さて、選別された実は、下の写真のような乾燥場で乾燥されます。

(黒胡椒の乾燥風景:青い実が乾燥すると黒くなります)

(赤胡椒の乾燥風景)

 これらは、1-2日乾燥させた後煮沸して消毒し、更に3日程度乾燥させます。乾燥が不十分だと保存中にカビが生えてしまいます。十分に乾燥させたものは、良い環境で保存すると何年でも持つと言われています。
 しかし、乾かし過ぎは禁物です。紫外線にあまり長期間当たると胡椒特有の風味が損なわれる言われているためです。 

 実は胡椒は通年は実を付けますが、この時期に収穫をするのは理由があります。胡椒を出荷するためには天日で乾燥させる必要がありますが、2月-4月の乾季のこの時期には滅多に雨が降らないので乾燥作業にもってこいな訳です。

 さて、収穫は胡椒の木の中で熟した房だけを摘み取る作業で、順番に6000本の添え木を何度も回り、2か月以上かけて行います。胡椒農園では、これから4月までこのような風景が続きます。

カンポットペッパー協会の年次総会に出席しました!

 弊社は、カンポットペッパー協会(Kampot Pepper Promotion Associatin)に所属しています。この協会は地元の胡椒農園の作る組合ですが、日本の農協のような機能を果たしています。

 特長は、

 1.‘Kampot Pepper‘という地域ブランドを持っているが、特に欧米では高級ブランドとして有名で、この協会に所属していないと、このブランドを名乗れない。

 2.協会員は、胡椒栽培方法に付いては、協会のガイドラインに従う必要があり、ガイドラインには100年以上前からの有機栽培の方法が定められている。即ち、協会員は厳密な意味で有機栽培を行っている。

 3.協会は、毎年胡椒の買取価格を決めて、協会員の農園から胡椒を買い取って、欧米からのバイヤーに売る。この買取価格が‘カンポットペッパー‘の標準価格となる。

 欧米での、‘Kampot Pepper`ブランドの人気は絶大で、TIME誌(2012年1月16日号)では、「普通の胡椒はテーブルワイン、カンポットペッパーは(ファイン)ボルドーワイン」とそのブランドを評しています。

 さて、カンポットペッパー協会の年次総会は、先週金曜日の朝8時から始まりました。

 最初に、ムンライ会長の挨拶や州の農業局のお偉方の挨拶がありました。(下はお偉方の写真)

(ムンライ会長と)

 次に、2009年度からの協会の拡大の歩みが紹介されました。会員数、植え付け面積、売り上げ等がすごい勢いで拡大の一途です。

 上の写真が今回発表された、その拡大を表す数値です。
 各列は、左から、年度、会員数、参加バイヤー数(欧米からの胡椒バイヤー)、植え付けられた添え木数、その内の収穫できる添え木数、植え付け面積、収穫高、協会が認めた収穫高、協会の手数料です。

 2009年には、会員数が113だったのに対し、2015年には倍増しています。また、作付面積は同じ期間で10倍にもなっています。
 会員数が2倍で、作付面積が10倍ということは、この期間で面積が大きな農園が増えてきたことを示しています。当初は0.5ヘクタールにも満たない小規模農家が100件ほどで始まりましたが、後に外国人や大資本を中心に数ヘクタール単位の大きなものが増えてきました。

 実際我々の近くの農園は、最近フランス人、ドイツ人、中国人の農園が増えてきました。もちろん我々日本人の農園も5-6軒あります。
 カンボジア人の資本家では、昨年前農林水産大臣のチャンサルン氏の20ヘクタールの農園も開業しています。

 なぜこれほど大きな農園が増えているかと言うと、この5年間ずっとカンポットペッパーブランドの胡椒の価格が急騰していることが主な理由です。
 欧米でブランド力の為に、欧米からのバイヤーが殺到してきており、昨年は協会経由では30トンしか出荷できなかったのに、バイヤーの買取要求は300トン来たそうです。需要に対して10%しか供給できない訳です。

 従って、価格もこの4年間で4倍にも値上がりしています。そこで、参入が相次いでいますが、植えてから3年目にならないと収穫できないし、そこからも年数が経たないと収穫量も増えないので、今後5年間程度はこんな状態が続く公算です。

 さて、この協会の実績発表の後には選挙です。まず、バイヤー代表を選びます。欧米バイヤーの代表も協会に所属して、品質向上や価格についてのバイヤー側からの意見を述べます。

 上の写真は、開票風景です。協会発足当時からのバイヤー会員2社が圧倒的多数で再選されました。
 これらのバイヤーは、‘カンポットペッパー‘ブランドを広めるために大きな役割を果たしてきました。
 このようにバイヤーを会員に迎えて、協力して行くのもユニークで優れたアイデアだと思います。

 その後は、カンポット州の各郡の代表選挙と、宴会になりました。

 カンポットペッパー協会は、カンボジアで唯一の成功している農業生産者の協同組合です。日本のNGOが必死になって農協をカンボジアに作ろうとしていますが、全く上手く行っていません。
 その中で、この協会は異色の存在です。

 各農園が、ブランドによる高価格保証というメリットによってガッチリ結びついているわけですが、それ以外にもバイヤー会員を迎えて意見を求め、かつブランドを宣伝してもらう等、協会の成功の秘訣の一端を見た気がしました。弊社も、今後協会の一員として、有機栽培を進めて行きたいと考えています。

カンポットペッパー農園記事(その8)

ケップの胡椒農園の近況

 弊社の胡椒農園は、カンボジア南西部のケップ特別市(州)とカンポット州の2か所あります。
 先週末にケップの農園に行きましたので、その様子をレポートします。

 昨年植えた木は、3mの屋根を突き抜けて育ち、実を鈴なりにつけ始めています。


 この時期は、胡椒の実ができても中の種の部分がまだ固く出来上がっていないので、実は青胡椒として食べることができます。青胡椒とは生のフレッシュな胡椒のことで、房ごと摘み取って野菜としてイカなどの海鮮と一緒に炒めて食べます。(辛いので1粒ずつ食べます)

 1月になると、実の中の種が固く熟してきて、野菜としては食べられなくなりますが、乾燥して黒胡椒や完熟の赤胡椒として出荷できるようになります。

 胡椒の木は屋根を突き抜けるほど伸びましたが、ココナッツ葉の屋根は1年でほとんど壊れてしまい、日光を遮れなくなってしまいます。(下の写真)

 胡椒はもともとうす暗いジャングルの中で他の木に巻き付いて生活する植物なので、直射日光には弱い性質があります。特に3歳未満の若い木は直射日光を避けるための屋根が必要です。
そこで、今再び屋根を葺くためのココナッツ葉を準備しています。

 上の写真は準備中のココナッツの葉で、虫干し中です。ココナッツ葉は、1ヘクタールの畑に5000枚という大量の枚数が必要で、この農園では4ヘクタール分合計2万枚を準備しています。

 さて一方、今年9月に苗を植えたばかりの畑の方は、若木が成長速度のピークの時期を迎えています。

 胡椒の木が伸びると、木の皮で作った紐で添え木に縛り付けて行きます。下の写真は木の皮から作った紐です。

 農園のスタッフは、これから半年間ほどは、胡椒の木の伸びの速さに急き立てられながら、紐結びに終われます。
 丁度これから乾季に入るところですが、乾季には全く雨の降らない期間が数か月続きます。胡椒は3-5日に1回は、添え木1本についてバケツ1杯の水が必要です。

 そのために、下の写真のような貯水池を用意し、雨季に雨水を溜めます。

 水不足だった昨年と違い、今年は雨季に十分な水が貯えられました。この農園では、来るべき乾季も乗り切れそうです。

 

カンポットペッパー農園記事(その7)

赤胡椒、黒胡椒、白胡椒、青胡椒は同じ1本の木から

 弊社は、カンポット州とケップ特別市で胡椒農園を運営しています。今回はこの農園で出来る胡椒の種類についてお話します。

 実は我々の食卓に上る胡椒には、赤胡椒、黒胡椒、白胡椒、青胡椒の4種類があります。
これらは全て同じ1本の木からできるのですが、収穫時期や製法が異なるために色や味、風味に違いが出てきます。

 胡椒の実は、実った初めは青(グリーン)でだんだん黄色っぽくなり、熟すにつれて赤味がかってきます。
 通常は、赤味がかる前に収穫してそのまま乾燥させます。一番風味が強いからですが、これが黒胡椒です。(下の写真)

 完全に熟してから収穫して乾燥させたものが、赤胡椒です。黒胡椒よりも味がマイルドになります。‘完熟黒胡椒‘などとも呼ばれ、取れ高も少ないので珍重されます。

 同じ1本の房でも下の写真の様に、赤胡椒(赤い実)と黒胡椒(になる緑色の実)が取れます。

 白胡椒は、黒胡椒になる実の皮を取って白い種の部分だけを乾燥させたものです。(下の写真)黒い皮の風味を感じずに、胡椒の本来の辛味が味わえます。


 これら赤、白、黒の使い分けですが、赤は黒の完熟版でマイルドになっているだけなので、基本は黒と白の使い分けになります。

 辛味の欲しい時には白、風味の欲しい時には黒とも言われ、魚料理には白、肉料理には黒ともいわれますが、実際には、個人の好みに依るところが大きいようです。
 例えば、私の場合、強い風味が欲しいので魚にも黒をよく使います。

 さて、青胡椒は何か?というと、熟す前のグリーンの実を収穫してそのまま野菜のように使ったものです。
 食卓では、乾燥させずに生のまま使いますので、カンボジアのような胡椒産地ならではのものになります。
 下の写真は、収穫後3時間のものです。冷蔵しないと2日くらいですぐに黒くなって使えなくなります。

 この青胡椒を使ったカンボジアの代表的な料理が、イカの青胡椒炒めです。

 何とも言えない、新鮮な胡椒の爽やかな風味が海鮮に良く合います。青胡椒の辛味は黒胡椒などよりはるかに少ないので、野菜として使われるのですが、青胡椒を房ごとガブリとやると大変なことになります。
 日本人は一粒ずつ食べた方が無難です。

 青胡椒の収穫時期は、丁度今、11月~12月になります。それ以降になると実が熟して固くなってしまいます。
 そして、十分に熟して固くなったものを翌年2月~5月に赤、黒、白胡椒として収穫するわけで、農園としての本格的な収穫作業になります。今から、それが待ち遠しいです。

カンポットペッパー農園記事(その6)

ケップ農園の胡椒の食品成分分析結果

 弊社では、カンボジア南西部のケップ州とカンポット州で‘カンポット・ペッパー‘ブランドの胡椒を完全有機栽培しています。
この胡椒を地元だけでなく、日本でも販売を拡大するように努力していますが、そのために、ケップの農園で取れた胡椒の食品成分を日本で分析してみました。

 分析内容は、
1.日本の食品のパッケージに通常表示する7種の栄養素とエネルギー(カロリー)
  タンパク質、脂質、炭水化物、ナトリウム、食塩相当量、水分、灰分、及びカロリー
2.残留農薬量
の2種類です。下は1.7種の栄養素とエネルギー分析結果です。


 各成分、エネルギーはやはり通常の食品分析表とほぼ同じです。カロリーは100g当たり364Kcalでスプーン1杯2gとすると約7Kcalとなり、普通に使う分にはカロリーは問題になりません。

 意外にも、タンパク質、脂質、炭水化物もバランスよく含まれています。
 また、この分析では出てきませんが、胡椒の辛味成分は主に植物のアルカロイドの1種、ピペリンという物質です。 このピペリンには抗菌、防腐、抗酸化作用があり、欧米人の肉食に胡椒が欠かせない理由となっています。
 また、一説によるとピペリンはターメリック(熱帯ウコン)の癌の炎症、感染症に対する効果を20倍も高めるとも言われています。

 さて、下は2.残留農薬量の分析結果です。

 106種類の農薬について検査をしましたが、全て検出されませんでした。
完全有機栽培なので当たり前のことなのですが、改めて有機栽培であることを実感させられます。

 完全有機栽培では農薬を使えないために様々の苦労があります。
 まず、除草剤が使えないので、除草作業を全て人手で行わなくてはならず、相当の労力がかかります。
(人手による除草風景)


 また、病気に対しても天然のもの以外の薬が使えないので、対応も限られてきます。
 その分、病気にかかりにくくするために、肥料の与え方等を工夫して抵抗力の高い胡椒の木を育てます。

 逆に言いますと、化学肥料と農薬を使う栽培法では、化学肥料をふんだんに与えて栄養過多の肥満児状態になるので、病気にもかかりやすくなり、農薬が不可欠になる訳です。

 さて、食品成分分析でも、無農薬が実証されましたので、これからも自信を持って完全有機栽培を進めて行きたいとおもいます。

 

カンポットペッパー農園記事(その5)

新胡椒農園の若木

 前回の記事で、今年増やした新胡椒農園で水不足を解消するために、井戸を掘ったことをご紹介しました。

 今年は、9月にこの農園の2ヘクタール、3000本の添え木に苗を新たに植えました。

 上の写真は、植えた直後のものです。1年経った若い木の枝を切って苗として植えるのですが、植えた直後数日は本体から切り離されて何とかサバイバル出来るかどうかの瀬戸際なので、ぐったりした様子になりました。

 全体の数%は、新しい土地に根を張れずにサバイバルできず、黒くなって死んでしまいます。

 死んでしまった苗は新しいものと取り替えますが、多くの苗は無事にサバイバルを果たして、今後の木の幹をなる新芽を出します。

 上の写真で、指で押さえているのがその新芽です。
植え付けから丁度2か月経った現在の新農園の様子です。

 全体に新芽が大きくなってきています。添え木の下部の緑の濃い部分は元の苗、黄緑の部分は新しく育ってきた茎と葉です。
 この時期には、コウモリの糞の肥料を与えます。胡椒の根の上の部分の黒い粉のようなものがコウモリの糞です。

 コウモリの糞はこの‘カンポット・ペッパー‘に独特の強い風味を与えます。このコウモリの糞は州内の山にある洞窟から採集されます。

 さて、添え木1本を見ると、下の写真のように新芽が大きく育って来ている様子が分かります。

 新芽が伸びると、ワーカーが木の皮からできた紐で添え木に巻き付けていきます。今後はその作業に追われます。来月には50cmほどの高さになります。

 

カンポットペッパー農園記事(その4)

新胡椒農園の井戸堀り

 今年新たに苗の植え付けをした新胡椒農園は、カンポット州チュムキリ-郡とチュウク郡の境にありますが、8月までは水不足が大きな課題となっていました。

 この農園の場所では、昨年は雨が多かったのですが、雨季本番のの7,8月に入ってもさっぱり本格的なスコールが降らず、折角掘った貯水池も下の写真のようにカラカラの状態になっていました。

 弊社のもう一つのKep特別市の農園の貯水池は、底から湧き水が出てくるので、雨が少なくても水量が維持できるのですが、この貯水池は湧き水も無いので、こんな状態になりました。
これでは、乾季になった時に胡椒にやる水が確保できません。

 スコールが来なくて貯水池に水が不足となると、対策は井戸を掘るしかありません。
カンボジアの多くの場所では、数十メートルの地下には水脈があるのが普通です。これは地下に流れる川のようになっているので、汲み上げても尽きることなく次々に湧き出てきます。

 早速、井戸業者を呼んで地下水脈の調査をし、井戸を掘る場所を特定します。この井戸業者は自分の調査に基づいて井戸を掘り、水がきちんと出た場合のみに費用を請求するシステムになっています。

 井戸業者が掘る場所を特定して、井戸を掘り始めました。下の写真のようにコンプレッサー車と連結して圧搾空気を送り込み、主にその圧力で地中を掘り進みます。

 これで井戸を掘り始めたのですが、10m位のところで断念しました。地下に固い岩盤があって、圧搾空気では歯が立たないのです。

 仕方なく、翌日別の場所を探して掘り始めました。順調に掘り進み地下に5mほどのパイプを立て続けに埋めて行きます。30mも掘ったところで、下の写真のように地下から水が吹きだし始めました。

 パイプを押し込んでいるところから、水が圧搾空気に押し出されて吹き上がっています。
(写真をクリックするとはっきり見えます。)

 何とか地下水に突き当たった様です。後は、これが単なる地中の水たまりではなく、地下水脈であることを確認する作業です。
やり方は、ここからポンプで24時間汲み上げ続けます。24時間汲み上げても水が出てくるようなら、本当の地下水脈と判断できます。

 幸いなことに、24時間耐久テストの結果、地下水脈に当たったことが分かり、井戸として使えることになりました。
 胡椒に与える水は井戸水を直接ではなく、この井戸水を一回池に溜めて含まれているヒ素を沈殿させてから使います。カンボジアの地下水はヒ素が含まれていることが多く、現地人は誰も井戸水を飲みません。

 上の写真は、井戸水を溜めた池です。幸いなことに、十分な水が確保できて次の乾季は何とか乗り切れそうです。

 

胡椒の有機栽培にこだわるわけ

 これまで、何回も書いてきましたように、弊社はカンボジア南西部のケップ特別市とカンポット州で完全有機栽培の‘カンポット・ペッパー‘を栽培しています。

 実はカンボジアの胡椒の産地は、我々の南西部カンポット州周辺の他に、東北部コンポンチャム州メモット郡があります。
南西部カンポット州では有機栽培が主ですが、東北部コンポンチャム州では化学肥料をふんだんに使った栽培法を取っています。

 カンボジアの胡椒の2大産地では、このように正反対の栽培法を取っていますが、近年どちらも急速に栽培面積と売り上げを伸ばしてきています。
従って、商売としてはどちらのやり方が良いとは一概には言えません。

 私自身は南西部での有機栽培にこだわっていますが、その理由は大きく2点あります。
 ・第1は、生産者としては自分が食べたい食品を提供したいこと。
 ・第2は、商売としても有機栽培のカンポット・ペッパーに大きな可能性があること 

 第1の点ですが、私が‘カンポット・ペッパー‘の黒コショウを、最初に食べた時のショックはまだ鮮明に記憶しています。今まで 50年間以上食べてきた普通の日本の胡椒とは、全く別の強い味と香りがあって、胡椒を使う意味が初めて分かったのです。

 これまでの胡椒は、多少刺激を感じるだけだったので、食品にかけてもかけなくても正直同じで、胡椒なんてなくても良いと思っていました。これは多くの日本の方も似たような感覚だと思います。
 しかし、カンポット・ペッパーをかけると、食品の味が大きく引き立つので、胡椒の存在価値がやっとわかりました。

 そこで、私は自分が生産するときには、有っても無くても同じようなものを作るのでは意味が無い、存在価値があるものを作りたいと考え、カンポット・ペッパー作りに挑戦しました。

 実際、化学肥料や農薬を使うと、味や風味に大きな影響が出ることが知られています。
 化学肥料・農薬販売会社では、味や風味への影響を軽微にする肥料の栄養素N(窒素),P(リン酸),K(カリ)の使用割合の指導を農家に対して行っています。

 しかし、どんなに工夫しても、化学肥料を使うと味・風味に影響がでてしまい、‘カンポット・ペッパー‘と同じものはできません。
 また、言うまでもないですが、自分が食べたい安心・安全な食品を他の人にも提供したいのは当たり前です。

 上はカンポット・ペッパーの乾燥中の黒コショウ

 第2の、商売として有機栽培は成り立つのか、利益はでるのかという点です。
 先ず、売り上げ高=収穫量x販売価格 ですから、収穫量と販売価格に分けて考えてみます。

 確かに収穫量は、化学肥料と農薬をふんだんに使った栽培法に分があります。化学肥料と農薬は20世紀農業が劇的に収穫を増やした「緑の革命」の主役ですから、収穫量を高めるための近代兵器です。

 一方の、‘カンポット・ペッパー‘の有機農法は、100年前からの伝統農法を基にしているので、収穫量では分が悪い訳です。
 実際、‘カンポット・ペッパー‘が最盛期に ヘクタール当たり4トン程度と言われていますが、化学肥料・農薬では  4 – 8トンまで可能とも言われています。やり方によっては、‘カンポット・ペッパー‘ の2倍近くの収穫量になります。

 次に販売価格ですが、‘カンポット・ペッパー‘は特有のブランドを持っていて、特に欧米から大量の引き合いが来ているために、カンボジアの地元で売る場合普通の胡椒の 2 – 2.5倍の価格で取引されます。

 これまでの話でお分かりのように、‘カンポット・ペッパー‘は収穫量は化学肥料・農薬農法の1/2になる可能性がありますが、販売価格は 2 – 2.5倍となるので、売り上げ高は1/2倍 x 2 – 2.5倍となりほぼイーブンか少し多めになります。

 利益は、売り上げ-費用ですから、費用を比べるとやはり農薬を大量に使う方が、除草剤を使えず人手で除草する有機栽培よりも有利です。
 しかし、ここはカンボジアで人件費が極端に低いので、人件費の点でも有機栽培はそれほど不利にはなりません。下は、有機栽培の人手による除草の様子

 以上のように、有機栽培は商売の観点でも、化学肥料・農薬農法に引けをとりません。
逆に、昨今は先進国だけでなく、中国や開発途上国でも安心・安全な食品を求める消費者が増えてきており、その動きは今後ますます高まります。

 そこで、‘カンポット・ペッパー‘は今後欧米だけではなく、中国やアセアン諸国へも需要が拡大していく可能性を秘めています。

 日本においては、‘カンポット・ペッパー‘はまだほとんど知られていませんが、取扱う販売会社も徐々に増えてきており、弊社も日本向けに商品を提供し、拡大を図っています。
 今後の大きな展開が期待でき、夢が広がります。

カンポットペッパーのご紹介

 弊社の胡椒農園もそうですが、カンポット州と南隣のケップ特別市の100件ほどの有機栽培農家で、カンポット・ペッパー協会(Kampot Pepper Promotion Assosiation)という団体を組織しています。
 この団体が有機栽培のガイドラインを定めており、そのガイドラインを順守したと認められた農園が、「カンポット・ペッパー(Kampot pepper)」のブランドを使うことを許されています。

 このように、「カンポット・ペッパー」とは、カンポット・ペッパー協会が認めた有機栽培の胡椒ですが、以下のような特長があります。

1.世界最高級の味と風味

 胡椒を大量に使い、胡椒の品質にこだわる欧米の声を代表するTIME誌も、2012年1月16日号で以下のように述べています。 
「普通の胡椒はテーブル・ワイン。カンポット・ペッパーは良質のボルドー・ワイン」

 確かに、食べていただければ一目瞭然ですが、フルーティな味とはっきりとした風味に特徴があります。
 欧米の一流フレンチ・レストランで使われており、欧米からの需要が高まっています。
 実際、昨年カンポット・ペッパー協会経由で輸出された胡椒はわずか 30トンでしたが、欧米に輸出する仲買商達からカンポット・ペッパー協会へ、その10倍の300トンの注文が殺到しました。

 この味と風味の理由は、完全有機栽培であると言うこともありますが、栽培されるカンポット州とケップ特別市の気候風土と、独特の赤黄色でミネラルを多く含む土壌によります。

2.完全有機栽培

 前々回の記事でも書きましたように、化学肥料や農薬を一切使いません。一般に化学肥料を使うと胡椒の風味に悪影響があると言われていますが、カンポット・ペッパーにはその様なことは一切ありません。
 また、消費者や生産農家への健康被害を心配する必要もありません。 

 カンポット・ペッパー協会の有機栽培ガイドラインは、100年前からの伝統農法をベースにしているので、肥料や害虫対策も全て自然のものを使っています。

 また、有機栽培については、有機認証の世界標準と言われているフランスのエコサート(ECO CERT)も取得しています。実は日本のJAS有機認証も、このエコサートを基にしています。
 下の写真、左がカンポット・ペッパーのトレードマーク。右はエコサートのマーク

3.栄光と荒廃、そして復活の歴史

 カンポット・ペッパーは、フランス植民地下で19世紀後半から栽培され、20世紀初頭には年間 8,000トンも生産されていました。これらは主にフランスに運ばれ、欧米の一流レストランで使われていました。

 ところが、1970年代のポルポト時代からの30年間の内戦で、胡椒栽培もできなくなり、カンポットの農園も荒れ果てました。内戦の終結後1990年代の後半から栽培農家がぽつぽつと戻り始め、代々伝わる伝統農法で胡椒栽培を再開し始めました。

 21世紀になってから本格的に胡椒農園が増え始め、2006年には100件ほどの農園でカンポット・ペッパー協会が組織され、欧米への輸出の基盤ができました。

 ここ数年で、カンポット・ペッパー協会経由の欧米への輸出が年々倍々の勢いで増加してきています。
 それに伴い、欧米でもカンポット・ペッパーが本格的に復活してきたことが知れて、需要も高まってきています。

 また、一昨年から日本勢もカンポット・ペッパーに着目し始め、ケップ特別市では 5-6 件の農園が作られています。下は、弊社のケップ特別市の農園

 高まる需要に対応して、カンポット・ペッパー協会の農園からの買取価格も年々上がり、この5年間で4倍に跳ね上がってきました。普通の胡椒の2倍の価格となっています。

 このように、カンポット・ペッパーは、一旦はポルポト時代に荒廃の底に沈みましたが、21世紀に復活を始めて、これから増々生産、売り上げを拡大して行くことになります。